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地震後めまい症候群:大地震のあと、実際には揺れていないのにめまいで揺れていませんか? 対処ポイントは

   日本は世界でも有数の地震国で、たびたびの大地震に見舞われています。今回の「令和6年能登半島地震」をはじめ、多くの大地震で被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。

  このような大地震のあと、もう実際には地面が揺れていないにもかかわらず、あたかも地震で揺れているかのようなめまい感覚が繰り返し生じることがあります。ひどい症状の方ですと日常生活や仕事にも支障をきたす場合があり、ひどくならないうちに耳鼻咽喉科・めまい相談医などの専門医を受診すると良いとされています。

 一般に「地震酔い」とも呼ばれていたこのようなめまい症状が、近年「地震後めまい症候群(Post Earthquake Dizziness Syndrome: PEDS)」として知られるようになっています。原因としては、大地震による揺れの身体情報が動揺感覚として蓄積され、不安情動などの心理的要素も相まって、実際には地面は揺れていないにもかかわらず、あたかも身体が揺れているようなめまい感覚を引き起こすメカニズムが考えられています。

 2011年の東日本大震災の後には実に7割以上の人が症状を自覚したという研究報告もあり、年齢や性別にかかわらず症状がおこる可能性があります。その後の我が国の幾つもの大地震後や、近年のインド・ネパール地震、トルコ地震後でも「地震後めまい症候群」に関する報告がされています。なかでも、もともと乗り物酔いしやすい体質の方や、心理的に心配性の方や、日常生活で運動習慣のない方、などに生じやすいともされています。多くの方は数か月で徐々に症状が軽快していき、やがて普通に戻ります。

 身体が揺れるようなめまい症状は屋内で静かにしている時に生じやすいので、その予防策や改善策としては、日常生活において1日に何度かは視界を広くとれる屋外などで軽いストレッチ体操やラジオ体操をおこなうと良いでしょう。また大地震の惨状のテレビやSNSに多く接していると、不安情動が反復されてめまい症状を治りにくくしてしまいますのでなるべくそのような画面や情報に接するのを減らすことも肝要です。そして症状がつらい方は早めに専門医を受診して、症状に応じて抗めまい薬、抗うつ薬、抗不安薬などの処方を受けた方が良いでしょう。

 以下に「地震後めまい症候群」の対処ポイントを挙げておきます。
1. めまい自覚時には、座っているよりも立ち上がって、身体を動かして広い景色を眺める
2. 不安情動を惹起させるような情報を減らす(地震のテレビ映像やSNS情報などをなるべく避ける)
3. 適度の運動スポーツ習慣を保つ(できれば視野を広くとれる屋外で、ラジオ体操やストレッチなどで通常のバランス感覚を保つ)
4. 増悪すると乗り物酔いのような気持ち悪さや自律神経障害、不安症状が強くなることもあるので、医療機関を受診して抗めまい薬、抗うつ薬、抗不安薬などの処方を受ける。

 大地震後に生じやすい「地震後めまい症候群」について解説させていただきました。あらためて被災された地域、皆様に心からお見舞い申し上げます。

                  日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 診療准教授 野村泰之

【参考文献】
1. 野村泰之、戸井輝夫、兼板佳孝ら: 地震後のめまい. JOHNS 32(1)79-83, 2016
2. 藤原圭志、野村泰之、柳 紘子ら: 北海道胆振東部地震における地震後めまい症候群に関するアンケート調査. Equilibrium Res 79(4)251-256, 2020
3. Miwa T, Matsuyoshi H, Nomura Y, et al.: Post-earthquake dizziness syndrome following the 2016 Kumamoto earthquake, Japan. PLos One. Aug5;16(8), 2021

 

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